そして僕は帰路に着く　その途中　見上げた空はさんざめく命の灯火たちの舞い
白い吐息に　透き通る沈黙の峠道　道すがら今宵の記憶を心に刻みつける

　ここは夢の大地　さい果ての地に掲げる凱歌は　その名も武勇　
風は凍え　憂愁の空は姿をあらわにし　今にも吠えそうな時の礫

　やがて訪れし　冬の使者　丹頂　海に降る雪は幻想
そして北の洋の彼方から　静かに忍び寄る流氷という名の旅人

　偉大なるかな北の路　その神秘に人の心は惑わされる　

　折に触れて思い出すあの日の幻影　北の外れで見たものは
忘れえぬ夢の断片　そして僕は思う　「あの日に帰りたい・・・」

　オホーツクに沈む夕日　灯台の下で揺れるバイクのシルエット
深まる季節を予感させるもの　いずれ語り継ぐ　つれづれなる者へ

　オホーツクに捧ぐ夕日　その壮麗に　いつの世も人はまどろむ
生きる証を胸に刻み　いつまでも時の経つのを忘れていたい

　偉大なるかな北の海　その懐に抱かれて僕は生きている

　その後僕は都会へ戻る　そこにあるのは朽ちた夢と　想い出と形を変えた宝箱
記憶を温めなおして　生きる糧を　この手に取り戻す
目の前にあるのは厳しい現実　かつての知りえる場所は消えうせ

　夢幻の　途絶えることなき醜き世界　その名は東京
高層ビルとざわめく都会の闇　季節は春　でも我が心は冷え切った氷の如し

　半月もすればここも桜吹雪　一面の花の舞い
過ぎゆく人を見送りながら　引き際を感じた都会の暮らし

　非情なるかな心の海　その儚さに酔いつぶれた夜

　そのとき僕は　サロマ湖の突端にいた　沈む夕日を友と見送りながら
西日を背にし　真っ赤な夕映えの中　　バイクで砂浜を駆けた
まるで昨日のことのように　まぶたに甦る

　目の前にオホーツク　それを優しく見守る灯台は　その名も竜宮
風は冷たく　神無月の空は　どこまでも澄み渡り　手が届きそうな星屑たち

　あと半月で　ここも雪景色　一面の銀世界　一抹の不安の中で
過ぎ行く秋を惜しみながら　肌で感じた季節の移ろい

　偉大なるかな北の洋　その恵に人の心は潤う